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  • 日本企業のグローバル展開への第一歩

    日本語の難しさ

    私は2020年2月から2025年7月まで約5年半の間アメリカ資本の翻訳会社でお世話になっていました。

    その翻訳会社では世界140以上の拠点で170言語以上の言語をサポートしています。私が在籍していた5年ちょっとの間に、様々な言語の翻訳依頼がありましたが、会社として「対応できない言語」というのに巡り合うことは一度もありませんでした。

    それだけの言語数の翻訳に対応している中で、最も難しいと言われている言語が「日本語」でした。

    もちろん文法的には日本語よりも難しい言語はたくさんあると思います。しかし、日本語の表現を英語に翻訳する場合も、英語の表現を日本語に翻訳する場合も、直訳では通じない内容が多々あり、著作物の意図を正しく反映するうえで翻訳以上のものが求められるという点では日本語の難しさは突出していたと感じています。

    言語という参入障壁

    多くの場合、言語は各国市場への大きな参入障壁ではなくなってきています。

    しかしながら、日本語に関しては、

    海外企業の日本市場への展開や、日本企業の海外市場への展開にあたって、今もなお、大きなの壁として立ちはだかっていると思います。

    その意味では日本企業は日本市場においては日本語<>英語の難しさによって海外企業との競争において、より優位であり、海外市場においては日本語<>英語の難しさによって海外企業との競争において、より不利な状況にあると言えるでしょう。

    一方で、そういった日本語特有の翻訳の難しさがあるにもかかわらず、ビジネスにおいてこの言語の大きな壁を乗り越えている企業はたくさんあります。

    そういった企業を6つに分類しました。

    シリコンバレーのテック企業

    これらの企業は、グローバルで画一的なソリューションを提供しながらも、膨大なテキストを、直訳ではなく日本人が理解できる言葉、そしてUIにローカライズしてサービスを提供しています。

    日本の自動車や家電など

    海外現地法人が本社同様のアントレプレナーシップをもって各国に応じた製品投入、マーケティング、ブランディングさらにはサプライチェーンまで構築しています。

    日本のロボットや半導体製造装置などの資本財

    特定のマーケットに存在する限られたプレイヤーの中で、突出した技術力を保有しており、円建てで輸出しても、言語の壁が存在しても、クライアント側が使いこなすだけの知識と経験があり、そして使いこなしたい思うほど、製品に対する高い信頼とロイヤリティがあります。

    日本のセラミックなどの素材

    陶器産業などに由来を持ち、日本特有の資源に培われてきた伝統的な技術が放熱、耐熱、絶縁など電子部品で求められる性能に活かされています。高いスキルを持つ技術者同士で処方が決まるので、そもそも言語が大きな壁となりにくいです。

    日本の生産財、空圧機器やベアリングなど

    高品質な製品を提供するうえで、手先が器用ですり合わせが得意な日本人の特性が優位性を持っています。ただし昨今は同様に手先が器用な台湾、韓国、中国のメーカーが急速に技術力を高めていますので、今後はローカライズ対応は不可欠と言えるでしょう。

    日本のゲームやアニメなどのコンテンツ

    コンテンツに力があり、伝統的に言語対応よりも海賊版対応が求められてきました。一方でゲームに関しては欧米も中韓も多くのグローバルAAAタイトルをリリースしており、グローバルで高い知名度を持ち、圧倒的に素晴らしいゲームを制作している日本のIPホルダーやゲーム会社も世界同時リリースしなければ見向きもされないようになってきており、ローカライズの重要性は近年はむしろ他の産業よりも高まっています。

    グローバル競争力

    上記6つに分類させていただきましたが、非常に限られた用途のプロフェッショナル間のビジネスで、高い技術的優位性をすでに保有している場合はローカライズは大きな問題となりませんが、それ以外の場合では、ローカライズはグローバル競争力に直結していると言うことができます。

    だからこそ、ローカライズから着手しようということになりがちですが、私は日本語からの翻訳が難しいからこそ、優先度としてはローカライズは後回しにしてもよいと思っています。

    極論となってしまいますが、売り先が見つかれば、それ以外のことは、自ずとすべきことが明確になります。優先順位としては、まずは売り先を見つけ、そのビジネスを縦方向にも横方向にも拡大するために、ローカライズを行うということが理想であると思います。

    そのため、私はグローバル展開への第一歩、今からできる、今だからこそできることは以下2点であると思っています。

    その1 外国人採用

    人手不足を補うための外国人採用ではなく、攻めの外国人採用をしている企業はたくさんあります。今すぐグローバル展開ができなくても、外国人リソース獲得、外国とのネットワーク構築をこのタイミングで行っておくことは、企業に新しい風を取り入れ、組織全体の視線を変える上でも大きな意味を持ちます。

    その2 現地に足を運ぶこと

    ローカライズは、その重要性さえ認識していれば、いざという時すべてアウトソースするということも可能と言えます。

    一方で、客は探しにいかなければ見つかりません。グローバルという大きな市場で、ホームページを開いて待っているだけで客が見つかるという新規ビジネスは存在しないと思います。

    たとえビジネスになっていなくても、開拓したい市場を頻繁に訪問して、毎回見込み客になりそうな企業を数社訪問する。そういったことを積み重ねることで、現地のニーズがだんだん分かってきます。

    現地のニーズがわかれば、マーケティングの仕組みは自ずと形成されていきます。

    終わりに

    日本語というグローバル展開に必ずしも便利ではない言語のみでビジネスをしてきた日本企業にとって、ローカライズは重要、かつ長期的な成長のためには不可欠です。

    でも、ローカライズだけして、口を開けて待っていても、何も始まりません。

    ローカライズから取り組むのではなく、外国人を採用して会社の組織をグローバルにするとともに、現地に行って生の顧客の声を聞き、一歩足を踏み出すこと。そして、ローカライズ含めてきちんと将来の事業プランとして設計して、タイムラインを決めて取り組むこと。

    つまり、ゴールを見据えたうえで、そのゴールに到達するために、今できることを、今の環境を踏まえて判断して、グローバル展開の事業プランを構築することが、将来のグローバル企業へのロードマップだと思います。