カテゴリー: 国際

  • Setting the Table 2026年7月7日

    経済産業省
    令和8年版通商白書

    経済産業省より令和8年度版通商白書が6月30日に公表されています。

    通商白書は経済産業省が自ら制作しており、シンクタンクだけでなく経済産業省の職員が実際に企業や各国機関に訪問して生の情報を入手した上で分析しているので、大変参考になります。

    毎年、通商白書からは一つの大きなテーマを読み取ることができますが、今年のテーマは地政学リスクを踏まえたサプライチェーン強靭化であると感じます。

    以下概要版よりいくつかピックアップいたします。

    【貿易】

    • 2025年度の対米輸出は前年比で減少し、対米貿易収支も約2兆円減少。
    • 2025年度の世界への輸出額は増加し、貿易赤字幅も縮小。
    • 米国は台湾、ベトナム、メキシコに対して貿易赤字を拡大。他方、対中貿易赤字は大幅に減少。サプライチェーンが関税措置に伴い変容。
    • 原油の輸入相手国において中東が占める割合:フィリピン95.2%、日本95.1%、ベトナム85.0%、韓国71.3%、シンガポール52.3%、インド46.9%、中国45.5%、インドネシア20.5%
    • 中国は原油、ニッケル鉱石、鉄鉱石などのエネルギー資源と重要鉱物の輸入元について、日本よりも多角化している。
    • 日本で使われる手術用手袋等のほぼ全てが輸入製品であり、マレーシア・タイ・ベトナムから約6割を輸入。

    【新興国】

    • 新興国市場の開拓は需要サイドの多角化を通じたリスク低減にも貢献し得る。
    • 資源調達の多角化に新興国との関係構築は重要。
    • 新興国から見た全体輸入は約25%まで中国が存在感を高め、日本を含め他の先進国の存在感は低下。2000年代まで新興国にとって圧倒的地位だった米国は、中国に交代
    • ASEAN諸国では、中国に輸入の50%以上を依存する中間財品目の割合が上昇。中国のグローバルバリューチェーンへの影響力は大きい。
    • 日本としてグローバルバリューチェーンにおける存在感を高めるべく中間財の輸出を増加させていくことが重要。
    • インドネシアでは大統領令において国産化率を条件として税制優遇等を措置。世界最大埋蔵量を持つニッケルの車載電池国産化に向け鉱石輸出管理等も実施
    • タイでは2030年までに自動車生産(二輪車を含む)の30%をゼロエミッション車とする「30@30」目標
    • 日本の投資は先進国でより多く蓄積しているが、収益率は新興国で高い。
    • 中国はASEANへの製造業の直接投資が着実に増加。
    • 工業団地整備は投資先国のサプライチェーン強靭化に貢献しつつ、中小企業含む日系企業の投資・輸出に重要な基盤を提供。

    【エネルギー】

    • アジアは経済成長やAIによるエネルギー・電力需要拡大に加え、中東情勢によるサプライチェーンリスク顕在化を受け、エネルギー含むサプライチェーン強靭化やカーボンニュートラル・エネルギー移行がさらに進む流れにある。日本の技術を伴う投資等進出がこうした対応の後押しになるとともに、日本にとってのサプライチェーン強靭化にもつながる。

    【グローバルサウスに係る通商戦略の方向性】

    • 令和5年度から毎年10億ドル措置するグローバルサウス補助金で、79ヵ国で計423件の実証事業等を支援。
    • これら実証事業等を基礎に、地域戦略や成長戦略17分野の官民投資ロードマップとも連動しながら、プロジェクトの事業化、事業者・実施国の裾野拡大、事業の横展開を図りつつ、これらの基礎となるグローバルサウス諸国とのアカデミア連携による共通知識基盤の創出を目指す。

    <所感>

    白書では日本が積み重ねてきた新興国投資へのストックについて言及されています。

    新興国への投資金額について、フローベースでは中国に抜かれていてもストックベースでは日本が上回っています。

    自動車メーカーが築いてきたメンテナンス網や、重電メーカーが構築してきた鉄道、発電所含めたインフラ、化学メーカーのプラントなどは新興国の経済成長に欠かせない役割を果たしてきました。

    マレーシアのルック・イースト政策など、新興国が日本を目標とする国家の一つにしてきたのは、その投資の規模だけでなく、その内容、特にODAをはじめ、現地と同じ目線で、現地社会の発展を第一として取り組んできたことが背景にあると思います。

    今、新興国で求められる内容は変わってきていますが、日本の投資スタンスはテクノロジーの変遷や他国の動向に左右されることなく、これまでのように現地社会の発展第一であってほしいと思います。