内部コストは外部コストを上回る
「規模の経済」には大量に生産することで単位あたりの生産コストを下げることができるという、大量生産大量消費を前提としている部分もあります。
生産コストには、人件費も含まれます。アウトプットの量が多ければ多いほど、アウトプット1単位あたりの人件費は下がっていくことになります。
このように大量生産大量消費を前提としたビジネスモデルを構築している場合、内部のリソースを増やして、定まった業務に特化した教育訓練を行うことでさらに生産性を高めることができます。
大量生産大量消費型社会から循環型社会への転換が求められるようになるにつれて、部分的にですがこの前提が成り立たなくなってきています。アウトプットには量よりも個性が求めらるようになり、少量多品種、さらには変量変品種といったモデルに変わると、内部コストは分散できなくなります。
その結果、次第に内部コストは外部コストを上回るようになり、アウトソースの比率が上がってきます。
プロジェクト・マネジメント力
工程が多様化すればするほど、内部のリソースには、特定の工程について専門特化した能力よりも、プロジェクト全体をマネジメントする能力が求められるようになります。
プロジェクト全体をマネジメントするにあたって、大量生産大量消費を前提としたプロジェクトならば工程がフォーマット化されているのでピラミッド型の指揮命令系統で対応できます。そのため、内部で育成され、社内の仕組みを熟知している人材が力を発揮することができます。
しかしながらこういったフォーマット化された工程は、今やロボットとソフトウェアが対応しており、こういった工程に求められるプロジェクト・マネジメントは限られています。今求められているプロジェクト・マネジメント力はプロジェクトのゴールがプロジェクト毎に異なっているものに対して、明確な方向性と最適なプロセスを定め、プロジェクト・メンバーが一体となって遂行していく上でのマネジメント力です。こういったプロジェクト・マネジメントにおいては多様な経験が尊重されるため、自社で育成した人材よりも外部から招聘した人材の方が適している場合があります。
このように、今では内部コストは外部コストを上回るようになり、雇用も流動的になっているというのは周知の事実です。
ベンダー・マネジメント力
終身雇用を前提とした人材育成システムが崩れ、プロジェクト・マネジメントができる人材を外部から招聘したり、外部リソースを積極的に活用するようになると、ベンダー・マネジメント力が企業の競争力を左右することになります。
日本企業は自動車にしても家電にしても建設にしても、下請構造を構築してきました。一次下請、二次下請、三次下請と多層な構造をつくり、それぞれが下請を支援し育てることにかけては世界に類をみないノウハウを確立してきたといえます。
しかしながら、今やアウトソースは固まった多層な下請構造ではなく、グローバルから最適なリソースを必要な時に調達することが必要な時代です。このようなグローバルから最適なリソースを調達するためのベンダーマネジメント力に長けている日本企業は決して多くはないと思います。
それでは、そもそもベンダー・マネジメント力とは何でしょうか?もちろん「最適なベンダーを見つけ出す」ことがまず重要ですが、最適なベンダーと契約することはそもそもベンダーマネジメント以前の条件です。
ベンダーマネジメントを遂行する上では、少なくとも以下の5つを満たす必要があります。
(1)ベンダーのアウトプットを高める
アウトプットの質がベンダー依存になると、ベンダーが変わるたびにアプトプットの質が変わることになります。そのようなばらつきのあるアウトプットの質を信頼してくれる顧客はないでしょう。
ベンダーが異なっても、同一のアウトプットを導くためには、そのアウトプットを実現するためのフォーマットをこちらからベンダーに提供する必要があります。
そしてベンダーがそのフォーマットに従って適切なアウトプットを出すことができるように指導する必要があります。
このように指導して育てた外部ベンダーには次に仕事を依頼する際には、より高い要求をしていくことで、ともに高め合うことができます。
(2)ベンダーに直接仕事が流れない
顧客は受領した納品物について、外部ベンダーによるものであることを知った場合、次からその外部ベンダーに直接仕事を依頼することを検討する可能性があると思います。なぜならばそれによって中間マージンを省くことができるからです。
ベンダー・マネジメントが確立している場合は、たとえ顧客が自社を飛び越して外部ベンダーに直接依頼をしたとしても、同じアウトプットを得ることはできません。
外部ベンダーへの依頼の仕方そのものがノウハウであり、たとえ同じ依頼でも、他社が依頼した場合は同じアウトプットが得られないようになって初めて、ベンダー・マネジメントと言えます。
(3)ベンダーへのロイヤリティ (Royalty)
外部ベンダーに対して支払う対価は単なる作業費ではなく、ベンダーのデザイン力や技術力に対するロイヤリティである必要があります。
アウトプットを均一にすることと、ベンダーのデザイン力や技術力を活かすことは、相反するように感じますがそうではありません。
自社の内部リソースでもできるが、外部リソースの方が安いから外部リソースを使うのではなく、自社の内部リソースではできないことを、外部の専門リソースを活用して実現することこそが、ベンダー・マネジメントです。
そのためベンダー・マネジメント力には、ある部分においてはプロジェクト・マネジメント力も必要となります。
(4)ベンダーのロイヤルティ(Loyalty)
外部ベンダーを拘束することはできません。つまり、外部ベンダーが競合他社のために仕事をしようとした時に、それを止めることはできません。
外部ベンダーが、競合他社ではなく自社のためにその専門性を生かしたいと思うようなロイヤルティを感じてもらうことが必要です。その要素には知名度やブランド力もあると思いますが、ベンダーと共に成長するというスタンスを明確にして、自社からもそれを裏切らないことが重要です。能力の高いベンダーほど、企業のもつ知名度やブランド力よりも、どのような成長機会を提供してくれるかということを重視します。それが自分では得られない成長機会であった場合、そのベンダーのロイヤルティは高まるはずです。
(5)ベンダーのコンプライアンス
顧客から依頼を受けた仕事を外部のベンダーに委ねるということは、顧客から入手した情報を外部ベンダーに提供するということを意味します。
外部ベンダー、例えばそれが海外にいるフリーランスだった場合、そのフリーランスが顧客の情報を漏洩しないという保証は得られるでしょうか?
ベンダー契約時に守秘義務を課したとしても、もしフリーランスが秘密を漏洩した場合、顧客から受ける損害賠償請求は莫大な金額であるのに対して、個人であるフリーランスがその全額を支払うことができる財力を持っていることはまれでしょう。
このように外部ベンダーと契約をすることそのものよりも、外部ベンダーが絶対に契約違反をしないような仕組みを構築することこそが、ベンダー・マネジメントと言えます。
ベンダー・マネジメントは企業規模に匹敵する
多様で変化のスピードが早く、肉体労働は機械が、知的労働はAIがそれぞれ一定の役割を果たすようになっている今の時代において、企業規模の大きさそのものが生産性の高さを意味しないようになってきています。
これからは従業員がわずかな人数でも、世界中で高いブランド力をもつ製品・サービスを提供する企業が増えていくと思います。これからも機械やAIができる業務は限られており、人の役割はこれまで以上に重要になっていくと思います。その時に、世界中の外部リソースを活用しながら、あらゆる製品・サービスを提供できるベンダー・マネジメント力が企業の競争力を左右することになるでしょう。