カテゴリー: 国際

  • Distribution Agreement

    Distributorとの契約はDistribution Agreement またはDistributorship Agreementといった内容になることが多いです。一般条項は別として、契約締結にあたっては、以下のような内容を合意することが多いです。

    • 対象となる製品
    • 販売代理店(排他的独占、独占、非独占)
    • 販売テリトリー
    • 競業避止義務
    • 販売価格と支払い通貨
    • 輸送手段
    • 支払条件
    • リードタイム
    • フォーキャスト
    • 危険負担
    • 受入検査
    • 不良品の取り扱い
    • 在庫
    • 品質保証責任
    • 商標その他知的財産権の利用

    代理権の付与にあたって、与える権利に応じた義務を課す必要があることは当然のこととして、危険負担、支払条件、品質保証についても、取引開始前にしっかりと合意しておかないと後でトラブルとなる可能性があります。

    以下、一部の条項について補足いたします。

    販売テリトリー

    海外の販売代理権を与える際に、

    1)全世界とする
    2)アジアやヨーロッパといった地域とする
    3)中国やドイツといった国単位にする

    といった場合があります。

    1)については稀で、ほとんとの場合、2)が3)と思います。

    ヨーロッパの、通貨がユーロに統一されており、またシェンゲン協定で移動の自由が確保されている地域内では、製品は障壁なく流通します。そのため、販売代理店は、フランス企業であってもドイツ企業であってもイタリア企業であっても、ヨーロッパ、または、EU全域の独占販売代理権を要求してくることは珍しくありません。

    例えば、カルフールやメトロなど大手GMSの店舗はフランスやドイツに限られていません。調達場所もフランスやドイツに限られていません。調達も販売も在庫も、本社のある国ではなく、EUという単位になっています。

    スポーツ用品のモンタナ・スポーツ、家具のイケア、衣料品のザラなど、フランス、オランダ・スウェーデン、スペインだけで取引をしていると思っている人はいないと思います。

    このような流通構造をもつエリアで、例えばイタリアとフランスのそれぞれに独占販売代理店を任命した場合、イタリアの販売代理店と、フランスの販売代理店が、それぞれカルフールやモンタナを顧客にもっていた場合、代理店同士で、国を跨いだ競合関係になる可能性があります。

    その結果自社製品同士で価格競争を繰り広げられることになってしまうという結果になりかねません。

    「権利を付与する」というところに論点を集中させて結論を急ぐよりも、ヨーロッパで自社製品の販売を最大化するためには、どういったテリトリーで捉えて、どういった販売チャネルで拡販に取り組むかということをまず考えることが重要です。

    そのためには、在庫をどうするか、物流をどうするか、といったことが定まらないと、判断ができないと思います。

    EUに限らず、TPP、RCEPなど関税の障壁をなくすための国際的な枠組みも交渉が進んでいます。まさに今、日韓は、さらに一歩進んだ経済的な枠組みの検討に入るタイミングかと思います。日本にとって身近なアジアや環太平洋だけでなく、湾岸諸国でもこういった枠組みは交渉されています。

    テリトリーについては、国際的な枠組みの動きも踏まえて検討する必要があります。

    為替リスク

    リーマンショック後、ドル円の為替は一気に円高になりました。リーマンショック前には1ドル120円を超えていたところ、リーマンショック後には70円台まで円高が進みました。

    この時、為替リスク対策ができていた輸出企業と、為替リスク対策ができていなかった輸出企業で収益に大きく違いが現れました。

    1ドル100円で設定していた企業にとって、1ドルが90円になると、それだけで10円の為替差損が発生してしまいます。

    リーマンショックでは、これが、わずか3ヶ月の間に、もっと大きな変化が生じました。3ヶ月という期間は、船便だったらリードタイムとして必要な期間です。

    つまり、1ドル100円以上の為替前提で受注した取引が、出荷時には1ドル90円以下になっているというケースが多発しました。

    通常の輸出企業にとっては対策を講じるすべがなく、ほとんどのケースで10%以上の大きな為替損失を発生させることになりました。

    ところが、この大きな為替の変動に対して、リスクヘッジができている輸出企業もありました。

    具体的には、

    1)ドル建てではなく、円建てで販売する
    2)ドル建てだが、出荷時のドル円為替に応じて価格を決定する

    といったリスクヘッジをとっていた企業です。

    半導体製造機器メーカーや一部のロボットメーカーなど、単価が高くてかつ技術的な差別化要因が大きい企業は円建てで取引をしていたようです。円建てで販売していた場合、自社の為替損失はゼロです。そのかわり、顧客が為替損失を全額被ることになります。

    2)の手法は利益率が低いが大量に製品を販売する、大手商社によって行われていたようです。出荷時の為替を適用するという手法は、L/C(Letter of Credit/信用状)の取引ではできません。T/T(Telegraphic Transfer /電信送金)でかつユーザンス取引(B/Lの日付から一定期日後の支払い)といった条件でないと、出荷時の為替でドル建て価格を決定するということはできません。与信管理できるほどの資金力、経験、販売網を持つ企業だからこそできるリスク管理であり、輸出ビジネスに長けていて、全世界に販売網を持っている商社だからこそ、リーマンショックのような突然訪れた急激な為替変動にも、あらかじめ仕組みとしてリスクヘッジが出来ていたのでしょう。

    もし上記のような円をベースの価格決定をしていなかったとしても、海外代理店契約と為替リスク負担について合意をしておくことで、ある程度のリスクヘッジとなります。自社から代理店、代理店から末端顧客と、為替差損を分散させることができれば、クッションとしての役割を果たしてもらうことができるからです。

    円安が続いています。円安がこれからも続くのか、それとも円高になるのか、先のことは見通せませんが、長い間円安が続いていたからこそ、万が一円高に急に振れた際の為替リスク管理について、考えておいた方がよいと思います。

    フォーキャスト

    そして海外とのビジネスは、国内のビジネスよりももっと多くの、様々な外部的な要因の影響を受けます。

    例えば、

    イランが経済制裁を受けたことによって、イランに輸出する貨物がイランで通関できなくなった。

    ベネズエラがわずか数年で、豊かな産油国から、ハイパーインフレとそれがもたらす高貧困率を抱える債務国に変わってしまい、順調に伸びていた対ベネズエラ輸出が、一瞬のうちにゼロになってしまった。

    韓国がEUとFTAを締結したことにより、韓国製品のEU市場の販売価格が相対的に低下し、韓国製品に切り替えられてしまった。

    など

    販売数量のドラスティックな変化が起こることは「まれ」な国内ビジネスとは違い、国際取引では注文が突然亡くなったりすることは、珍しいことではありません。

    その一方で、海外の情報は日本ではなかなか手に入りません。

    急激な海外向け出荷量の変化で国内工場の稼働状況が大きく変動し、人員体制や原材料調達も変動し、結果として国内ビジネスにも大きな影響を与えてしまうこともあり得ます。

    突然の環境の変化に対しても、ある程度そのことを予測して、対策を講ずることができるような仕組みを、海外のパートナーとの間で合意しておくことは有益です。

    その一つの手法としてローリング・フォーキャストがあります。

    フォーキャストは購入予定のことで、通常は1ヶ月など1年分など、一定期間のフォーキャストを入手しておき、それに基づき予算や生産計画を設計します。

    例えば1年分の購入予定数量をフォーキャストとして入手したとします。自社としては安定的な供給のために、フォーキャスト通りの数量を全量販売したいところです。

    一方で、前述の通り、テリトリー内で大きな環境変化が生じる可能性があります。フォーキャストに基づき生産計画を立てていたのに、実際にはその10分の1しか売れなかった、ということになると収益に大きな影響を与えることになります。

    こういった場合に備えて、1年分のフォーキャストを「毎月」入手するという、ローリング・フォーキャストを販売代理店との間で合意していれば、変化を早めに察知して、お互いにコミュニケーションによって、危機を回避することができる可能性が高まります。

    紛争解決

    国際取引の場合、取引の相手方と商習慣もそれぞれの国内で普段から遵守している法律の内容も異なります。

    通常、契約締結段階では両者の関係は良好なため、紛争解決手法の重要性を感じることはあまりありません。でもいざ、取引が始まると、お互いの商習慣の違いや国内法の違いから、解釈の相違が生まれることが少なくありません。

    契約締結当時、両者がどれだけ友好的であったとしても、取引を重ねるにつれて両者の見解の相違が明らかになり、関係の溝が深まり、紛争に発展することといったことがないとは絶対に言い切れません。

    そのため契約締結段階で、もし紛争になった時に、どの法律に基づいて解釈し、どの手法で紛争を解決するかという、紛争解決手法を合意しておくことが一般的です。

    この紛争解決手法については、多くの場合「準拠法」と「紛争解決地」について合意されることが行われています。

    例えば日本とアメリカの企業との間で契約を締結する場合、アメリカの場合は設立準拠法は州ごとで異なるため、もし相手方がデラウェア州の企業の場合、
    準拠法が日本法かデラウェア州法か、紛争解決地は日本の裁判所か、デラウェア州の裁判所か、といったことが交渉内容となります。

    通常は交渉の力関係で、日本企業の方が優位な場合は日本法で東京地方裁判所で、といったことが合意できるのですが、お互い力関係が対等な場合、お互い譲らずに合意できないということも起こり得ます。他の内容で合意したにも関わらず、紛争解決条項で合意できないため、契約が締結できないというのは大変残念なことです。

    そのため、そういった時に、「被告地」、すなわち、訴えた方ではなく訴えられた方の国の裁判所を管轄裁判所とする合意とすることがあります。訴えた方にとって不利なため、「被告地」とすることには、安易に相手方を訴えることに対する牽制の効果もあります。

    また、国際紛争の解決手法は話し合いや裁判だけではなく、斡旋、調停、仲裁といった手法もあります。

    裁判の場合、判決がそのまま執行力を持つという点で有効な手段であることは
    間違いありませんが、通常は裁判には時間がかかり、費用もかさみます。

    そこで国際契約では、仲裁が紛争解決手法として選ばれることが多いです。
    仲裁の場合、裁判と違って一審制となります。また、裁判と違って非公開のため、企業秘密が相手国内に漏れないというメリットもあります。法律の専門家である裁判官ではなく、特定分野について専門知識をもった専門家を仲裁人として選定することもできます。

    そして、仲裁に関する国際条約の加盟国間では仲裁の結果が法的執行力を持つことが合意されているため、裁判同様、執行力を確保することができます。

    さらに仲裁の場合、仲裁地を第三国で合意することもできます。

    例えば、日本の企業とアメリカの企業で契約を締結する場合に、仲裁地をシンガポールという形で合意することもあります。
    もちろん、日本の企業にとってもアメリカの企業にとっても紛争解決のためにわざわざシンガポールまで出張するといったことは現実的ではないため、第三国を仲裁地で合意するようなケースは、紛争を牽制して、できる限り話し合いで解決することを導く効果もあると言えます。

    もし紛争解決手法として仲裁を選択する場合は当事者間で「紛争の解決は仲裁による」ということをあらかじめ合意しておくことが必要となります。

    紛争が起こってからの合意は難しいため、契約書締結段階で仲裁条項を合意しておくことが一般的です。この仲裁条項については日本商事仲裁協会等の国際的な仲裁機関がモデル条項を公表しているため、その条項をそのまま使っておけば
    間違いはないと言えます。

    契約書を締結することそのものが契約の目的ではなく、契約書は、お互いの合意内容を書面化しておくことで言った言わないを防ぐとともに、もし紛争になった時の合意内容を証明するためのものです。そういった意味でも、紛争解決のための条項の合意は、取引内容の合意と同じくらい重要な条項であると思います。

    品質保証責任

    品質保証について、日本の契約書の場合は、契約不適合という条項が定められていることが多いです。

    日本の契約書は、基本的に民法と商法の条項を前提に作成されていますし、契約書がない場合でも民法と商法が適用されます。

    国際取引で日本の民法・商法の規定が適用されることにはなりませんので、。
    ・品質保証期間は何ヶ月(または何年)か?
    ・品質の瑕疵があった場合はどう対処するか?
    (例えば返却して代替品を納品する場合に、返却に伴う費用負担はどうするか?)
    ・もし損害があった場合はその賠償の範囲は(間接損害や逸失利益を含めるか?)
    といったことを、契約書で合意しておく必要があります。

    特に、代理店経由での取引の場合は、代理店と末端顧客との間では、テリトリー国内の法律が適用されることになります。もし代理店が品質の瑕疵に気がつかないまま、末端顧客にデリバリした場合、末端顧客に対して代理店が責任を負わなければならないことになります。

    代理店と末端顧客との間の品質保証条件をきちんと定めてもらうためにも、代理店との間の品質保証についての合意は大変重要です。

    間質損害が逸失利益は損害賠償に含まないといった合意を行う場合は、以下のようにすべての文字を大文字で記載するといった慣習もあります。(あくまで参考例となります)

    IN NO EVENT SHALL XXX BE LIABLE FOR ANY SPECIAL, 
    INDIRECT, INCIDENTAL, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES 
    IN ANY WAY ARISING OUT OF, IN CONNECTION WITH, 
    OR RELATING TO THIS AGREEMENT, AND/OR THE SALE 
    OR USE OF PRODUCT SOLD HEREUNDER, EVEN IF XXX 
    HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES.

  • DistributorとCommission Agent

    海外代理店契約には、Distributor, Sales Representative, Agentなど様々な形態があります。

    いずれの形態でも、付与する権利、守るべき義務は契約で定めて合意することになりますが、基本的な知識としてDistributorとCommission Agentの違いを認識することは必要です。

    通常は、Distributorはエンドユーザーと自社との間に介在して、取引として販売まで行います。一方で、Commission Agentの場合は、取引には介在しません。販売促進までしか行わず、Commision Agentが見つけてきた顧客に対して、自社が直接販売し、販売価格の○%かをCommission Agentに支払うことになります。

    この「売買に介在するか否か」の違いは、貿易においては大きな違いがあります。例えば、Distributorの場合は売買に介在するのでBuyerとして通関手続きを行うことができますし、もちろん在庫を行うことができます。
    しかしCommission Agentの場合は、通関手続きのサポートはできてもBuyerではないので通関を切ることができませんし、製品の所有権がないのでCommision Agentの所有物として在庫を行うこともしません。

    また、Distributorの場合、末端顧客への販売をDistributorが行うため、
    末端価格を自社が決めることはできず、Distributorが末端顧客にいくらで販売したか、自社には分からないこともありますが、Commission Agentの場合は末端顧客への販売を自社が行うため、末端価格を自社で把握し、決定することができます。

    Distributorを選定する場合は、どの末端顧客に販売する場合でもDistributorからの支払いになるため、末端顧客毎に口座を開く必要がありませんが、その分、Distributorの与信リスクが高くなります。Commission Agentの場合は、その逆となります。

    このように、海外で代理店経由で製品を販売する場合、Distributorか、 Commission Agentかで、検討すべき契約内容が大きく異なることになります。

    さらに、例えばCommission Agentの場合でも、寄託在庫ではなく預託在庫として、自社の所有権のまま現地に在庫を持つことができるような仕組みもあります。代理店選定の際は、形態別のメリット・デメリットを把握した上で、
    細かく契約内容を検討することが大切です。

  • 独占販売代理権

    海外の代理店と契約する際、代理店側から「独占販売代理権」を要求されることがあります。

    代理店にとっては、もし自社以外にもその国に代理店があれば、同じ市場で同じ製品でその代理店と競争をしなければならなくなる可能性があるので、むしろこの「独占販売代理権」を要求してくるのが普通であると思います。

    一方で、代理店を認定する側からすれば、後からもっと販売力のある代理店が見つかる可能性があるので「独占」という形で販売代理権を与えて、将来の選択肢をなくしてしまうことには抵抗があります。「独占販売代理権」を与えたにも関わらず、その代理店が真剣に販売促進を行わない場合は、市場開拓の機会を失ってしまうというリスクがあります。

    グローバルに知名度のあるブランドではなく、これから海外に本格的に展開しようという場合、現地で顧客を保有している代理店候補に対して、優位に交渉を進めることは難しいです。力関係から、代理店側の要望を受け入れざるを得ないことが多いと思います。

    そこで、この「独占販売代理権」の考え方を、「排他的独占」と「独占」に分けて交渉するという方法があります。「排他的独占」とは、テリトリー内でその販売代理店以外は一切販売活動を行えないという条件です。一方「排他的」ではない「独占」は、他の代理店は一切販売活動を行うことはできないが、自社が直接販売活動を行うことは認める、という条件です。

    「排他的独占」の場合は、自社も販売ができないですが、「排他的」でない「独占」の場合は、自社で販売ができるので、少なくとも市場開拓の機会を失うというリスクは回避でき、またそれによって独占販売代理店に対する牽制の役割を果たすことができます。

    この場合、英語では、「排他的独占」を”exclusive”と表現し、「排他的」ではない「独占」を”sole”と表現することで区別することができます。

    または、排他的独占販売代理店を与えざるを得ない場合に、最初の段階では契約期間を自動更新にするのではなく、1年や2年など期間を定めるというのも一つの方法です。

    なお、独占販売代理権を認める場合、競業品の取り扱い禁止や最低購入数量を定めておきたいところですが、これらの義務は市場開拓の初期段階では合意をすることは簡単ではありません。

    そういった意味でも、最初は権利も義務も緩やかに、そして関係が継続するにつれて、与える権利を大きくするならばそれに応じて義務も大きくしていくといったコミュニケーションも大切であると思います。

  • 秘密保持契約ドラフトを受け取ったら?

    ビジネス上、パートナー候補と深いディスカッションをするためには、公表していない情報を特定の相手に開示しなければならないこともあれば、開示を受けなければならないこともあります。

    プログラムなど知的財産、ノウハウやビジネスモデルなど営業上の機密、投資対照、価格情報、既存顧客など、あらゆる要素が固有の情報となり得ますので、特に海外とのビジネスにおいては、秘密保持契約の締結は挨拶がわりとも言えるほど、締結が必要なものとなっています。

    しかし挨拶がわりだから、提示されたドラフトをそのまま締結しても問題ないわけでは決してありません。契約である以上、合意した内容に拘束されます。

    秘密保持契約を受け取った際、いくつかのチェックポイントがあります。契約交渉も交渉なので、当然パワーバランスが影響を与えますが、特に契約が重視される海外企業と英文での秘密保持契約を締結する場合、一般的には、論理的な修正依頼は受け入れられます。

    そのため、リスクを認識した上で、そのリスク運用で回避できるかどうかどうか、それともまずは修正を受け入れるかどうかを判断した上で締結すべきです。締結した後で、「こんなことが書いてあるなんて気がつかなかった」ということはあってはならないことです。

    ところが、実際には「こんなことが書いてあるなんて気がつかなかった」ことが、海外企業との英文の秘密保持契約ではあり得ます。

    なぜならば、日本の契約書のように会社の代表者が捺印するのではなく、海外の契約書はサインで締結するので、担当者が法務部門のチェックを経ることなる自分でその場でサインをして、現場でディスカッションを進めるということがあり得るからです。そして、スピードが求められている今の時代において、そういった対応をしないとビジネスチャンスを失ってしまうということもあり得ます。

    つまり、英文の秘密保持契約書の基本的なチェックポイントは、法務部門が把握しているだけでなく、現場の交渉にあたる担当者も最低限把握している必要があります。

    チェックポイントとしては以下のものが挙げられます。

    • 双務契約か片務契約か
    • 秘密保持以外の内容が定められていないか
    • 秘密情報の内容を特定することができるか
    • 義務を負う期間は明確か
    • 損害賠償
    • 準拠法と紛争解決手続き

    以下、主なポイントについてご説明します

    双務契約か片務契約か?

    双務契約は双方同じ義務を負う契約、片務契約は一方の当事者のみが義務を負う契約となります。

    英語を読むことがあまり好きではない担当者でも、この論点は契約書を見ればすぐに察知できます。

    • サインする当事者が一方のみだったら片務契約の可能性が高いです。特にレターのような差し入れ形式の場合は片務契約の可能性が高いです。
    • 片務契約はunilateral、双務契約はmutual、場合によってはbilateralと表現されていることが多いです。both party agreeとか either(またはeach) party acknowledge that とかまたはreceiving party agreeという表現ではなく、”会社名” agreeとなっている場合は、片務契約の可能性が高いです。

    こちらが売り手で、相手方が買い手で、製品を売り込んでいる場合、一方的に義務を負う片務契約で秘密保持契約の提示を受けた場合、その場でサインをしてしまいがちです。

    往々にして売り手が開示する情報にはスペックや価格など、重要な情報が含まれていることが多いです。もしこちら側からもこういった重要な情報を開示する場合、この段階で片務契約から双務契約への変更を交渉しておかないと、後で契約を結び直すことは難しくなります。

    そして、重要な情報の開示を受けることがわかっている場合、片務の契約を双務にするというフェアな要求は受け入れられることが多いです。もし相手型から片務のドラフトの提示を受けたならば、双務のドラフトも持っていると思うので、unilateralではなく、mutualの契約に変更して欲しいと、伝えることが望ましいでしょう。

    秘密保持以外の内容が定められていないか

    秘密保持契約書はnon disclosure agreementとかsecrecy agreementといった名前になっていることが多いです。

    しかしタイトルが秘密保持契約となっていても、秘密保持以外の内容が定められていることがあります。決して多くはないですが、知的財産の許諾や移転や、売買の条件など、将来もしビジネスになった時の条件をあらかじめ秘密保持契約の段階で記載しておくということもあり得ます。

    秘密保持契約締結の目的は、守秘と目的外使用の禁止です。それ以外の権利義務が記載されている場合は、本当にその内容が必要なのかどうかを精査した上で合意をする必要があります。

    最初から最後まで目を通して、秘密保持と関係のない情報が含まれていないかチェックして、もし含まれている場合はその場で判断せず、持ち帰って回答とすべきと言えます。

    秘密情報の内容を特定することができるか

    秘密を守ると約束した以上は、守らなければなりません。

    でも「何が秘密情報か?」ということが分からなければ守れません。

    そして、開示当事者は秘密情報として認識して開示したにもかかわらず、受領した側が秘密情報と認識していなかったため漏洩してしまったという場合は、紛争となり得ます。

    そのため、秘密保持契約を締結する上でこういった運用面も考慮に入れる必要があります。もし秘密保持契約書に秘密情報を特定するような内容(例:秘密と明記された書面の情報、価格情報、顧客情報等)が記載されていなかった場合、双方何が秘密情報かを確認しあって、できる限り書面で明確化しておくことが望ましいと言えます。

    義務を負う期間は明確か

    秘密保持契約の期間は1年間でも契約終了後は一定期間守秘義務を負う、というのが一般的な期間の定めとなります。

    秘密保持契約段階では、実際にビジネスになるかどうか未定で、ビジネスになるならば後で別の契約を締結することなることが多いです。

    もしビジネスにならない場合でも、開示した情報は一定期間守秘し続ける必要があります。「情報を開示することを前提とした秘密保持契約は終了したとしても、守秘は続けてよ」というのはリーゾナブルな内容と言えます。

    この内容も同様に、約束した以上は守らなければなりません。

    例えば契約終了後も守秘義務は10年間残る、といった場合、本当に守ることが出来るでしょうか?人材の流動性が高い今、10年間情報を守り続ける体制を維持するのは簡単ではないですし、技術革新のサイクルが早い今、契約終了後10年間守り続けなければならない情報は稀と言えます。

    もし契約終了後に残る守秘義務の期間があまりにも長い場合、運用上その期間が本当に必要か、果たして守り続けることができるか、という視点で検討をする必要があります。

    損害賠償

    どのような契約でも、契約違反の場合の契約解除や損害賠償の情報は入っています。

    そして秘密保持契約の場合、入り口で締結する契約であるにもかかわらず、損賠賠償には「契約違反の場合は間接損害や逸失利益含めてすべての損害を賠償する」といった重たい内容が入りがちです。

    双務契約の場合は、損害賠償の範囲を限定することがお互いにとって必要な事項となります。そのため、受け取ったドラフトをそのまま受け入れるのではなく、直接損害に限定するなど、必要に応じて交渉することも必要と思います。

    準拠法と紛争解決手続き

    国際契約では揉めがちな条項です。東京地方裁判所か大阪地方裁判所かというレベルではなく、紛争解決地をニューヨークか東京かということになると、お互い譲歩することができず、例えば被告地にするとか、第三国にする、といった内容に落ち着くことが多いです。

    また紛争解決手段も裁判ではなく仲裁といった形にすることが多いです。

    一方で、秘密保持契約に関しては紛争の論点は「秘密を守ったかどうか」と、明確です。もし合意した内容を守ることができることが確実ならば、この条項で揉める必要はないと思われます。

    秘密保持契約の内容について、どうやって秘密を守るか、という視点で交渉することなく、いざ紛争になった時にどう解決するか、という視点のみで交渉をすると、相手の海外企業から「本当に秘密を守るつもりがあるのか』と思われることになるので注意が必要です。