地球の表面は3分の2が水で覆われており、地球は水の惑星ですが、私たちが生きていく上で不可欠な淡水はそのわずか2.5%であり、しかもその多くを氷河などの氷が占めるために、実際に私たちが利用できる淡水は0.01%に過ぎないません。
世界人口の急速な増加に伴う水需要の拡大により私たちは深刻な水不足の危機に直面しており、ユニセフによると世界で6億6,300万人が安全な水を手に入れることができないとのことです。
水需要の増加の一方で、工業廃水や生活排水設備の不備による水の汚染、気候変動に伴う河川や湖沼の枯渇、都市化・森林伐採・ダム建設等に伴う水資源の破壊など、安全な水の供給は減っています。そのため、人口の増加をはるかに上回るペースで安全な水を手に入れることができる人の割合は減っていくことになります。
環境省の水環境戦略タスクフォース報告によると
- 日本人は1日300ℓもの水を使用、アフリカでは1日10ℓ以下の水のために8時間もの水汲みを強いられている地域もある
- 世界では水と衛生不足により毎年180万人(1日約5,000人)の子供が死亡
- 蛇口を回せばいつでも清潔な水を利用できる日本人の水問題への関心は高くない
- 我が国の産業と雇用を支える水(全就労人口の約5割が何らかの形で水と関わっている産業に就労)
とあります。
この日本においても、水不足は深刻な課題です。外務省ホームページによると日本は,食料供給のうち,カロリーベースで6割,生産額ベースで3割を海外に依存しており、世界の農産物輸入に占めるシェア(金額ベース)では4.3%もの割合を占めているとのことです。このことからも、世界的な水不足は、日本の食料不足に直結することは明らかです。
農産物や工業製品を生産していたら使用していたと想定される水をバーチャル・ウォーターと呼び、日本ではバーチャル・ウォーターの量は、実際の国内の水使用量に匹敵していると言われています。見方を変えると日本で水資源が豊富な理由は、他国の水資源に頼っているからであるとも言えます。
農産物輸出国では大量の地下水を使用していますが、地中に水分が蓄積されるサイクルと、その水分を取り出すサイクルの割合では、後者の方が圧倒的に上回っています。このように水供給と水需要のバランスは崩れており、私たちは自然から得られる淡水だけでなく、人口的に淡水を作り出さなければならない状況となっています。
地球上に豊富に存在している海水を私たちが利用できる淡水に変える海水淡水化は、自然から淡水を得ることができない一部の砂漠地域で水道を維持するためのものだけでなく、世界的な水不足を補う上での水の供給源としても必要になりつつあります。
海水淡水化は夢のような技術であるが、実際には多くの課題を抱えています。まず、海水淡水化プラントを稼働させるためには大量のエネルギーが必要で、海水淡水化プラントの数が増える程、そのエネルギー需要は、地球温暖化の原因となります。さらに海水淡水化処理によって、塩分濃度が高い濃縮物であるブラインと呼ばれる副産物が発生していますが、そのブラインの量は淡水化される水の量を上回っており、かつ淡水化処理の過程で塩分だけでなく防汚剤や重金属などの様々な化学物質が含まれています。この人体に悪影響をあたえるブラインが、そのまま海に廃棄されるなど適切な処理がなされない場合、海の生態系をはじめとする地球環境に悪影響を与えます。また、海水に生活排水に含有されている医薬品や化学物質などが含まれている場合、それらを適切に除去できるかという点についてはまだ解決されていません。近年はマイクロプラスチックの問題が大きく取り上げられていますが、海水淡水化は、海中でマイクロ化されたプラスチックをより直接的に私たちの体内に取り込む方法にもなり得ます。
そして、海水淡水化技術が発展するほど、私たちの水不足への危機感が薄らぐことが、最も危険な問題かも知れない。実際に、海水淡水化の仕組みを知らず、海水淡水化プラントを見たこともない人からすると、地球上に豊富にある海水を淡水化できる夢のような技術があるならば、人類は永遠に水不足に直面することはないだろうと思うかも知れない。その場合、水問題に対する根本的な解決に向けた活動を大きく後退させることになる。
セス・M・シーゲル著 秋山勝訳「水危機を乗り越える!」(草思社 2016年)では、国土の60パーセントが砂漠で、それ以外の土地も半砂漠の国であるイスラエルが、水の輸出まで行う水資源立国に成功するまでの取組を紹介しています。以下そのイスラエルの取組を同著より引用します。
- 帯水層、井戸、ガリラヤ湖から天然の水を汲み上げて浄水
- 海水の淡水化
- 半塩水を汲み上げるために採掘
- 塩分を含む水でも生育する種子の開発
- 下水のほぼすべてを高度に浄化して農業用水に再使用
- 雨水をためて再使用
- 水を消費する公園や庭での撒水を抑制
- 人工降雨による雨
- 全器具(とくにトイレ)に水効率の高い製品を使用するように指導
- 漏水に先だって設備を置き換えるとともに、漏水時に的確な修理を実施
- 学校教育を通じて節水の大切さを周知
- 節水を促す水道料金
- 節水に関する技術開発への奨励金
- 蒸発量の減少をうながすアイデアの実験
- 水効率のよい作物への転作
- 灌漑方式として点滴灌漑法の全面的な導入
このように、水のサステナビリティを維持するために、取水、水の使用、汚水の排出など水に関わるあらゆる方面に政策が関与し、科学技術が活用されていることが分かります。水の供給を増やすための技術だけでなく、水を無駄にしないための技術こそが私たちが真剣に取り組まなければならないことではないかと考えさせられます。
環境省は水環境総合情報サイト、水辺の環境活動プラットフォームなど、良好な水環境の保全と活用のための情報サイトを複数運営しています。水質汚濁防止や排出規制だけでなく、水という命の源である資源を守るための教育や新技術、そしてビジネスモデルの重要性も高まっていくと思います。