Distribution Agreement

Distributorとの契約はDistribution Agreement またはDistributorship Agreementといった内容になることが多いです。一般条項は別として、契約締結にあたっては、以下のような内容を合意することが多いです。

  • 対象となる製品
  • 販売代理店(排他的独占、独占、非独占)
  • 販売テリトリー
  • 競業避止義務
  • 販売価格と支払い通貨
  • 輸送手段
  • 支払条件
  • リードタイム
  • フォーキャスト
  • 危険負担
  • 受入検査
  • 不良品の取り扱い
  • 在庫
  • 品質保証責任
  • 商標その他知的財産権の利用

代理権の付与にあたって、与える権利に応じた義務を課す必要があることは当然のこととして、危険負担、支払条件、品質保証についても、取引開始前にしっかりと合意しておかないと後でトラブルとなる可能性があります。

以下、一部の条項について補足いたします。

販売テリトリー

海外の販売代理権を与える際に、

1)全世界とする
2)アジアやヨーロッパといった地域とする
3)中国やドイツといった国単位にする

といった場合があります。

1)については稀で、ほとんとの場合、2)が3)と思います。

ヨーロッパの、通貨がユーロに統一されており、またシェンゲン協定で移動の自由が確保されている地域内では、製品は障壁なく流通します。そのため、販売代理店は、フランス企業であってもドイツ企業であってもイタリア企業であっても、ヨーロッパ、または、EU全域の独占販売代理権を要求してくることは珍しくありません。

例えば、カルフールやメトロなど大手GMSの店舗はフランスやドイツに限られていません。調達場所もフランスやドイツに限られていません。調達も販売も在庫も、本社のある国ではなく、EUという単位になっています。

スポーツ用品のモンタナ・スポーツ、家具のイケア、衣料品のザラなど、フランス、オランダ・スウェーデン、スペインだけで取引をしていると思っている人はいないと思います。

このような流通構造をもつエリアで、例えばイタリアとフランスのそれぞれに独占販売代理店を任命した場合、イタリアの販売代理店と、フランスの販売代理店が、それぞれカルフールやモンタナを顧客にもっていた場合、代理店同士で、国を跨いだ競合関係になる可能性があります。

その結果自社製品同士で価格競争を繰り広げられることになってしまうという結果になりかねません。

「権利を付与する」というところに論点を集中させて結論を急ぐよりも、ヨーロッパで自社製品の販売を最大化するためには、どういったテリトリーで捉えて、どういった販売チャネルで拡販に取り組むかということをまず考えることが重要です。

そのためには、在庫をどうするか、物流をどうするか、といったことが定まらないと、判断ができないと思います。

EUに限らず、TPP、RCEPなど関税の障壁をなくすための国際的な枠組みも交渉が進んでいます。まさに今、日韓は、さらに一歩進んだ経済的な枠組みの検討に入るタイミングかと思います。日本にとって身近なアジアや環太平洋だけでなく、湾岸諸国でもこういった枠組みは交渉されています。

テリトリーについては、国際的な枠組みの動きも踏まえて検討する必要があります。

為替リスク

リーマンショック後、ドル円の為替は一気に円高になりました。リーマンショック前には1ドル120円を超えていたところ、リーマンショック後には70円台まで円高が進みました。

この時、為替リスク対策ができていた輸出企業と、為替リスク対策ができていなかった輸出企業で収益に大きく違いが現れました。

1ドル100円で設定していた企業にとって、1ドルが90円になると、それだけで10円の為替差損が発生してしまいます。

リーマンショックでは、これが、わずか3ヶ月の間に、もっと大きな変化が生じました。3ヶ月という期間は、船便だったらリードタイムとして必要な期間です。

つまり、1ドル100円以上の為替前提で受注した取引が、出荷時には1ドル90円以下になっているというケースが多発しました。

通常の輸出企業にとっては対策を講じるすべがなく、ほとんどのケースで10%以上の大きな為替損失を発生させることになりました。

ところが、この大きな為替の変動に対して、リスクヘッジができている輸出企業もありました。

具体的には、

1)ドル建てではなく、円建てで販売する
2)ドル建てだが、出荷時のドル円為替に応じて価格を決定する

といったリスクヘッジをとっていた企業です。

半導体製造機器メーカーや一部のロボットメーカーなど、単価が高くてかつ技術的な差別化要因が大きい企業は円建てで取引をしていたようです。円建てで販売していた場合、自社の為替損失はゼロです。そのかわり、顧客が為替損失を全額被ることになります。

2)の手法は利益率が低いが大量に製品を販売する、大手商社によって行われていたようです。出荷時の為替を適用するという手法は、L/C(Letter of Credit/信用状)の取引ではできません。T/T(Telegraphic Transfer /電信送金)でかつユーザンス取引(B/Lの日付から一定期日後の支払い)といった条件でないと、出荷時の為替でドル建て価格を決定するということはできません。与信管理できるほどの資金力、経験、販売網を持つ企業だからこそできるリスク管理であり、輸出ビジネスに長けていて、全世界に販売網を持っている商社だからこそ、リーマンショックのような突然訪れた急激な為替変動にも、あらかじめ仕組みとしてリスクヘッジが出来ていたのでしょう。

もし上記のような円をベースの価格決定をしていなかったとしても、海外代理店契約と為替リスク負担について合意をしておくことで、ある程度のリスクヘッジとなります。自社から代理店、代理店から末端顧客と、為替差損を分散させることができれば、クッションとしての役割を果たしてもらうことができるからです。

円安が続いています。円安がこれからも続くのか、それとも円高になるのか、先のことは見通せませんが、長い間円安が続いていたからこそ、万が一円高に急に振れた際の為替リスク管理について、考えておいた方がよいと思います。

フォーキャスト

そして海外とのビジネスは、国内のビジネスよりももっと多くの、様々な外部的な要因の影響を受けます。

例えば、

イランが経済制裁を受けたことによって、イランに輸出する貨物がイランで通関できなくなった。

ベネズエラがわずか数年で、豊かな産油国から、ハイパーインフレとそれがもたらす高貧困率を抱える債務国に変わってしまい、順調に伸びていた対ベネズエラ輸出が、一瞬のうちにゼロになってしまった。

韓国がEUとFTAを締結したことにより、韓国製品のEU市場の販売価格が相対的に低下し、韓国製品に切り替えられてしまった。

など

販売数量のドラスティックな変化が起こることは「まれ」な国内ビジネスとは違い、国際取引では注文が突然亡くなったりすることは、珍しいことではありません。

その一方で、海外の情報は日本ではなかなか手に入りません。

急激な海外向け出荷量の変化で国内工場の稼働状況が大きく変動し、人員体制や原材料調達も変動し、結果として国内ビジネスにも大きな影響を与えてしまうこともあり得ます。

突然の環境の変化に対しても、ある程度そのことを予測して、対策を講ずることができるような仕組みを、海外のパートナーとの間で合意しておくことは有益です。

その一つの手法としてローリング・フォーキャストがあります。

フォーキャストは購入予定のことで、通常は1ヶ月など1年分など、一定期間のフォーキャストを入手しておき、それに基づき予算や生産計画を設計します。

例えば1年分の購入予定数量をフォーキャストとして入手したとします。自社としては安定的な供給のために、フォーキャスト通りの数量を全量販売したいところです。

一方で、前述の通り、テリトリー内で大きな環境変化が生じる可能性があります。フォーキャストに基づき生産計画を立てていたのに、実際にはその10分の1しか売れなかった、ということになると収益に大きな影響を与えることになります。

こういった場合に備えて、1年分のフォーキャストを「毎月」入手するという、ローリング・フォーキャストを販売代理店との間で合意していれば、変化を早めに察知して、お互いにコミュニケーションによって、危機を回避することができる可能性が高まります。

紛争解決

国際取引の場合、取引の相手方と商習慣もそれぞれの国内で普段から遵守している法律の内容も異なります。

通常、契約締結段階では両者の関係は良好なため、紛争解決手法の重要性を感じることはあまりありません。でもいざ、取引が始まると、お互いの商習慣の違いや国内法の違いから、解釈の相違が生まれることが少なくありません。

契約締結当時、両者がどれだけ友好的であったとしても、取引を重ねるにつれて両者の見解の相違が明らかになり、関係の溝が深まり、紛争に発展することといったことがないとは絶対に言い切れません。

そのため契約締結段階で、もし紛争になった時に、どの法律に基づいて解釈し、どの手法で紛争を解決するかという、紛争解決手法を合意しておくことが一般的です。

この紛争解決手法については、多くの場合「準拠法」と「紛争解決地」について合意されることが行われています。

例えば日本とアメリカの企業との間で契約を締結する場合、アメリカの場合は設立準拠法は州ごとで異なるため、もし相手方がデラウェア州の企業の場合、
準拠法が日本法かデラウェア州法か、紛争解決地は日本の裁判所か、デラウェア州の裁判所か、といったことが交渉内容となります。

通常は交渉の力関係で、日本企業の方が優位な場合は日本法で東京地方裁判所で、といったことが合意できるのですが、お互い力関係が対等な場合、お互い譲らずに合意できないということも起こり得ます。他の内容で合意したにも関わらず、紛争解決条項で合意できないため、契約が締結できないというのは大変残念なことです。

そのため、そういった時に、「被告地」、すなわち、訴えた方ではなく訴えられた方の国の裁判所を管轄裁判所とする合意とすることがあります。訴えた方にとって不利なため、「被告地」とすることには、安易に相手方を訴えることに対する牽制の効果もあります。

また、国際紛争の解決手法は話し合いや裁判だけではなく、斡旋、調停、仲裁といった手法もあります。

裁判の場合、判決がそのまま執行力を持つという点で有効な手段であることは
間違いありませんが、通常は裁判には時間がかかり、費用もかさみます。

そこで国際契約では、仲裁が紛争解決手法として選ばれることが多いです。
仲裁の場合、裁判と違って一審制となります。また、裁判と違って非公開のため、企業秘密が相手国内に漏れないというメリットもあります。法律の専門家である裁判官ではなく、特定分野について専門知識をもった専門家を仲裁人として選定することもできます。

そして、仲裁に関する国際条約の加盟国間では仲裁の結果が法的執行力を持つことが合意されているため、裁判同様、執行力を確保することができます。

さらに仲裁の場合、仲裁地を第三国で合意することもできます。

例えば、日本の企業とアメリカの企業で契約を締結する場合に、仲裁地をシンガポールという形で合意することもあります。
もちろん、日本の企業にとってもアメリカの企業にとっても紛争解決のためにわざわざシンガポールまで出張するといったことは現実的ではないため、第三国を仲裁地で合意するようなケースは、紛争を牽制して、できる限り話し合いで解決することを導く効果もあると言えます。

もし紛争解決手法として仲裁を選択する場合は当事者間で「紛争の解決は仲裁による」ということをあらかじめ合意しておくことが必要となります。

紛争が起こってからの合意は難しいため、契約書締結段階で仲裁条項を合意しておくことが一般的です。この仲裁条項については日本商事仲裁協会等の国際的な仲裁機関がモデル条項を公表しているため、その条項をそのまま使っておけば
間違いはないと言えます。

契約書を締結することそのものが契約の目的ではなく、契約書は、お互いの合意内容を書面化しておくことで言った言わないを防ぐとともに、もし紛争になった時の合意内容を証明するためのものです。そういった意味でも、紛争解決のための条項の合意は、取引内容の合意と同じくらい重要な条項であると思います。

品質保証責任

品質保証について、日本の契約書の場合は、契約不適合という条項が定められていることが多いです。

日本の契約書は、基本的に民法と商法の条項を前提に作成されていますし、契約書がない場合でも民法と商法が適用されます。

国際取引で日本の民法・商法の規定が適用されることにはなりませんので、。
・品質保証期間は何ヶ月(または何年)か?
・品質の瑕疵があった場合はどう対処するか?
(例えば返却して代替品を納品する場合に、返却に伴う費用負担はどうするか?)
・もし損害があった場合はその賠償の範囲は(間接損害や逸失利益を含めるか?)
といったことを、契約書で合意しておく必要があります。

特に、代理店経由での取引の場合は、代理店と末端顧客との間では、テリトリー国内の法律が適用されることになります。もし代理店が品質の瑕疵に気がつかないまま、末端顧客にデリバリした場合、末端顧客に対して代理店が責任を負わなければならないことになります。

代理店と末端顧客との間の品質保証条件をきちんと定めてもらうためにも、代理店との間の品質保証についての合意は大変重要です。

間質損害が逸失利益は損害賠償に含まないといった合意を行う場合は、以下のようにすべての文字を大文字で記載するといった慣習もあります。(あくまで参考例となります)

IN NO EVENT SHALL XXX BE LIABLE FOR ANY SPECIAL, 
INDIRECT, INCIDENTAL, OR CONSEQUENTIAL DAMAGES 
IN ANY WAY ARISING OUT OF, IN CONNECTION WITH, 
OR RELATING TO THIS AGREEMENT, AND/OR THE SALE 
OR USE OF PRODUCT SOLD HEREUNDER, EVEN IF XXX 
HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES.