ヘルスケア産業

人の健康はお金には換算できません。その点で健康は「産業」とは言えないでしょう。

健康の維持のためには、多くのステークホルダーが関わっています。医療機関、医療機器メーカー、製薬、さらには院内設備、薬の卸、健康診断、スポーツクラブなど

健康に関わる事業は数多く、かつ、一つ一つの規模も決して小さくありません。

そして、医療や健康は行政と密接に関わっており、医師法、医療法など法規制も多く厳格、健康保険制度は地方自治体、健康保険組合、協会けんぽ等の保険者が
担っています。医薬品も医療機器も販売のためには各国の許認可を得なければなりません。

そのため、ヘルスケアをビジネスをして捉えることには心理的な抵抗感があります。

そういった中でヘルスケア「産業」としてとらえるいくつかの大きな変化が起こっています。

一つは医療ツーリズム。進んだ医療を受けるため、あるいはより充実した設備で医療を受けるために、富裕層を中心に国を跨いで医療を受ける人が増えています。タイは外国人患者を受け入れることのできる設備・語学の備わった病院がいくつも存在しています。インドネシアの富裕層はシンガポールで健康診断を受ける人が多いです。日本でがん検診を受ける中国の富裕層もいます。こういった医療の国際化の流れは、付随する産業の国際展開を促進することにつながると思います。

二つ目はデータ。
健康アプリ、母子手帳アプリをはじめ、様々な無料ソフトウェアがあります。
日本では電子カルテ(EHR)やPersonal health Record (PHR)の仕組みも政府が積極的に推進しています。またウェアラブルデバイスでも脈拍数を測定できるなど
医療機器としての一定の機能が備わっています。こういったアプリやコンシューマデバイスを通じて集められたデータは、これまでの治験では得られなかった新たなアウトプットを導く可能性があります。
そして世界ダントツの超高齢社会の日本で得られたデータに基づくアウトプットは、今後日本の次に超高齢社会を迎える国々にとっての重要なソリューションとなるため、グローバル競争力を持つ新たな企業がデータの利活用から生まれるかも知れません。

三つ目は規制の動きです。
規制そのものが、産業育成の観点から一部緩和される傾向にあります。
薬事承認の期間の特定を適用する事例が増えています。また規制のサンドボックス制度のように、データによる実証を根拠に、規制を見直していくような取り組みも始まっています。
社会環境が変化するにつれて、そしてICT化が進むにつれて、規制の側にも変化が起こっています。

ヘルスケアを「産業」として様々なベンチャー企業が誕生しています。今後大きな変化が生まれる可能性があり、注目のテーマと言えます。そして、人の命に関わる事業であるということを十分認識の上、行政の動きと密接に連携していくことが必要です。