日本の電力システムでは長い間、電力会社が発電量をコントロールして供給する電力量の調整を図ってきました。そのため電力会社は、常に需要のピークに対応できる電力量を用意できる体制を構築しており、ピーク時以外は稼働をしていない電源も多いです。
現在の電力小売自由化の下では市場原理が働くため、電力会社としても、年間を通じて稼働率が低い電源を維持し続けると採算面の悪化を招くことになります。温室効果ガス削減の観点からも、貯蔵することができないエネルギーを需要のピークを基準とした量で製造し続けることは望ましくありません。そこで電力供給量に対して、需要側が調整を図っていく仕組みが検討されてきました。
需要側が電力使用量の調整を図っていく上で、太陽光発電やエネファームなどの再生可能エネルギー発電システムで発電した電力と蓄電池を活用した分散型エネルギーの活用が求められています。分散型エネルギーとは、地域社会で再生可能エネルギー発電の運用を前提に、足りない電力を電力会社から購入し、余った電力は電力会社に販売するという双方向型の電力の需要・供給の仕組みです。
一方で、再生可能エネルギー発電は天候等に発電量が依存する不安定な発電の仕組みでありかつ、再生可能エネルギーで賄える電力量は限られており、電力会社による安定的な発電と、再生可能エネルギーによる不安定な発電が混在することになると、分散型エネルギーはむしろ電力供給の不安定化を招くことになりかねません。
経済産業省資源エネルギー庁は2024年に「再生エネ大量導入時代における分散型エネルギーシステムのあり方」を公表しています。
同資料では『2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、S+3Eを大前提に、再生可能エネルギーの大量導 入が必要。一方、太陽光や風力などの変動性再生可能エネルギーは、発電時間と需要時間が異なる 「時間的乖離」や、発電地と需要地が異なる「空間的乖離」といった課題を有している。現状では、こうした乖離を解消するために、火力発電や揚水発電での調整や、地域間連系線の整備 等により対応を行う必要性が生じ、更なる再エネの導入に対応するために電力システム全体で必要となるトータルの費用が増加していくことが課題である。一方、近時では、分散型エネルギーリソース(DER)が普及し、これらを制御する技術も進展し ている。この技術を活用することで、需給に近接した脱炭素化された調整力等2を創出することがで き、再エネ導入に対応するために電力システム全体で必要となるトータルの費用が抑制されることで、 更なる再エネ導入拡大にも資することが期待できる。』と課題を提起した上で、『具体的にはDERを制御する技術(DR:ディマンドリスポンス)を用いながら、1.発電に近接した工場や家庭等の需要地内で消費モデル(自家消費)を追求しつつ、2.需要地内では消費しきれない再エネ電気を活用していくため、地域内で消費するモデル(エリア内活用)も目指していく』としています。
ディマンドリスポンスは発達したIT技術を駆使して電力需要と供給状況を監視・制御し、不安定な発電状況でも安定した電力供給を実現する仕組みであり、スマートメーターによって「見える化」された電力量に基づき、需要側が将来のピーク時需要の削減を電力会社にあらかじめ約束し、それによって対価を得る仕組みです。スマートメーターが、各電力会社の管内で普及し、管内の電力使用量がリアルタイムで常に把握できるようになり、かつディマンドリスポンスを活用した需要側との契約によって電力会社が供給量を決定することができれば、電力会社による発電量の総量を減らすことができるばかりでなく、発電設備の安定的な稼働の実現も期待できます。再生可能エネルギー発電の比率の向上や水素エネルギー社会の実現に取り組んでいく上でも、ディマンドリスポンスの仕組みへの期待は大きいです。
プラグインハイブリッド自動車は、自動車としてだけでなく蓄電池としての役割を担うこともできます。再生可能エネルギー発電による余剰電力を電力会社に販売するだけでなく、プラグインハイブリッド自動車に充電しておけば、地域社会における移動する蓄電池として災害時における新たなライフラインの供給源にもなり得ます。また、エネルギーを自給自足し、化石燃料などから得られるエネルギー消費量がゼロとなることを目指すZEBやZEHも本格的普及の段階に入っています。分散型エネルギーシステムは脱炭素という大きなテーマの中で、再生可能エネルギー発電の拡大、建築物の省エネルギー性能向上、ICT技術の進展、AIの実用化とともに形を変えながら地域に根付いていくことになると思います。
そして脱炭素のそれぞれのプロセスにおいて、国が大きな方向性を明確にした上で様々な支援制度を提供しています。企業にとっては、こういったゴールが明確な一方で変化のスピードが早く、変化が大きい分野においては、国と地方行政の動向をウォッチしながら、実証事業やZEB支援、再生可能エネルギー事業支援はじめ、様々な行政の取り組みに積極的に関与していくことも有意義と思います。