奈良のネイチャーポジティブ

奈良県には深夜まで営業できるエリアは新大宮駅前1箇所しかありません。それ以外の飲食街は夜の閉店時間が早いです。昼に多くの観光客でにぎわう奈良駅周辺も例外ではありません。

奈良県で最も高い建物は、近代的な高層ビルではありません。現在保存修理中の興福寺の五重塔です。2番目に高いビルは東大寺大仏殿です。

京都からの近鉄線と、大阪からの近鉄線が交差する、もっとも交通の便のよい場所にあるのは、繁華街ではなく広大な原っぱである平城宮跡です。

奈良県も奈良市も、都市機能は大阪や京都に委ねて、別のものを重視しているように感じます。

その別のものとは何か?ということは人によって様々な意見があると思いますが、一つ言えることは、「ネイチャーポジティブ」であるということです。

写真は早朝、夜明け前の春日大社です。誰もいないですが、よく見ると鹿がいます。奈良の鹿は野生なので、奈良公園以外の街中にも普通にいます。

奈良公園にはDeer lineという言葉があります。奈良公園の鹿が届く範囲の植物を食べてしまうので、高さ2mくらいの綺麗に揃った線で、木の下の景観が開けています。長年に渡って、鹿と共生してきたネイチャーポジティブな社会だからこそ実現している景観です。

奈良で料亭や喫茶店に行くと、奈良絵が描かれた赤膚焼の器で食事、お茶、コーヒーなどを楽しむことができます。赤膚焼は量販店では売っておらず、買える場所は限られています。赤膚山の土は焼き物に適していますが、その土は大量生産に使われることはなく、土も大事に育てられています。

茶筌や墨などは奈良県でほどんどが作られています。その製法は昔から変わらず、自然の素材をそのまま使っています。

三和素麺は乾麺として木箱で貯蔵し、梅雨を越してから出荷です。高温多湿の自然環境によって熟成します。柿の葉寿司は柿の葉で包み、重石をして一晩寝かせることで、柿の葉の殺菌作用と香りが鯖の旨みを引き立てます。

観光も産業も、自然と共生し、自然からの恵みをそのまま活かして使用する、そんなネイチャーポジティブが奈良にはたくさん存在しています。ネイチャーポジティブな活動に従事されている方に接すると、環境保全が大切とか、そういったことではなく、毎日を無事過ごせることへの感謝の繰り返しをひたすらに行われているように感じます。

そういえば、愛知県豊川市の私の祖父母もそうだったな、と思います。100年前はみんなネイチャーポジティブでした。多くの人が失いつつあったその心を、ずっと持ち続けているのが、奈良の人々だと思います。