BCP:事業継続計画

ブルーノ・ヴィクトル=プジュベ 監督のPARIS 2010という映画があります。セーヌ川の洪水によるパリ市内の混乱をシミュレーションしており、あらかじめどれだけ対策をとっていたとしても想定外の事態は必ず発生すること、そして、都市機能が高度なインフラに依存するようになればなるほどインフラの停止が与える影響は大きくなり、そういった万が一の災害によるインフラの停止が発生した際には、そこに住む人の多くはその準備ができていないために混乱は大きくなることを、現実性のある描写で認識させてくれる内容になっています。 

災害に強い構造に建築物を強化したり、災害リスク評価、災害リスク管理によるレジリエンス強化を行なったりなどの対策の結果、同規模の災害に対する被害は大きく軽減されていますが、それでも被害がゼロになるということは保証はできない状況です。気候変動の影響による集中豪雨、大地震の発生可能性誰もが、そして、いかなる企業も、いつ災害に直面してもおかしくない状況にあります。 

2011年の東日本大震災では一部のゴム原材料や電子部品のサプライチェーンの一時的な停止が、自動車メーカーの生産ラインの停止をもたらしました。2016年の熊本地震でも一部の部品メーカーの被災が、再び自動車メーカーの生産ラインに対して大きな影響を与えました。

大災害を事前に想定したリスクマネジメントをどれだけ徹底していても、影響は避けられません。むしろ、東日本大震災や熊本地震でのあれだけの大災害にも関わらず、自動車メーカーの生産が早期に復旧したのは、損害を最小限に止めるためのプロセスが確立されていたことの証であり、そのことこそ、BCPの真価であると言えます。災害の想定にあたって、事前にリスクを認識し、代替リソースを確保し、想定外の事態が起こった場合に誰に報告し、誰が判断をし、どのように実行に移していくかといったことを取りまとめ、関係者に周知することが、BCPにおいて重要と言えます。 

グローバル化とともに企業の生産体制も多様になっています。例えば自動車産業は下請メーカーと一体となって高品質の完成品を製造する垂直統合型の製造プロセスを基本としながらも、消費地の近くで生産する必要性が高まるにつれて、海外で地場のメーカーからの部品調達比率を高めています。セル生産方式が進んでいる電気自動車の場合は、必ずしも下請構造を前提としたサプライチェーンではなく外部の部品メーカーからの調達を前提とした水平分業での製造プロセスも可能であり、同じ自動車業界でも調達・組立・品質管理のプロセスは多様化していいくことになります。グローバル化が進むほど各社の生産拠点は世界中に分散し、また競合他社よりも高い生産性を追求するほど生産方式も多様化していくことなり、つまり、それだけリスク管理手法もますます複雑になていくことになります。半導体も自社生産とファウンドリに委託する場合ではプロセスが全く異なります。PCやスマートフォンについても同様に、自社で組み立てる場合とEMSで組み立てる場合では、万が一の災害の際に、事業継続のために検討すべき内容は全く異なります。グローバル競争のもとで外部との取引コストが下がる程、リスク管理について検討すべき内容は増え、災害リスクを想定して取引先とあらかじめ合意すべき内容に抜けや漏れが発生しやすくなると言えます。 

先進国の市場と新興国の市場では求められる製品も異なれば、投入する製品のライフサイクルも異なります。同じ先進国でも日本、欧州、米国、韓国とではそれぞれ市場は異なり、同じ新興国でも中国、インド、インドネシアではそれぞれ市場は異なります。市場としてのカントリーリスク、生産拠点としてのカントリーリスクも考えると、あらゆる災害リスクを想定したグローバル時代のBCPは事業継続のための守りの戦略だけでなく、攻めの戦略と言うこともできます。 

所有を前提とした大量生産・大量消費社会から、必要な量だけ生産された物を最大限効率的に使用することを前提とした分散型社会への移行が進んでいます。従来型の大量生産・大量消費社会では製品を安く大量に作るための資本力とノウハウが競争力を左右しましたが、分散型社会では差別化されたサービスを提供するためのアイデアとそれを実現するスピードが競争力を左右するようになってきています。またESG、サステナビリティが重視され、一流企業によって生産されたすぐれた性能を持つ製品であっても、それがリサイクル性に乏しかったり、または製造工程において環境破壊を引き起こしていたり、あるいは児童労働を行っていたりすると社会的に受け入れられないようになっています。

BCPとは「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」をいいます(中小企業ホームページより引用)。

産業構造の変化に伴い、多くの企業にとって「事業資産」も「中核となる事業」も、そしてそれを「継続するための方法、手段」も変わっていきます。万が一の災害等を想定したBCPの策定はそれを考える良い機会であり、またその答えを見つけることは企業の永続のための事業戦略そのものであると言ってもよいかもしれません。

中小企業庁は「中小企業BCP策定運用指針」を公表しています。入門診断で自社がBCPの策定・運用がどれくらい進んでいるかを確認することができます。その上で、基本コース、中級コース、上級コースに分けてBCP策定のためのコースが提供されています。

この指針に従ってBCP策定に取り組むことで一通りの内容が網羅されるようになっています。

BCP策定のご支援に関心がある際はご連絡をいただけますと幸いです。