Setting the Table 2026年4月20日

金融庁
「企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会」報告書

リスクマネジメントという言葉は昔からあり、企業として戦略的に取り組むテーマであると、どの企業も認識していると言えます。

一方で、リスクマネジメントに取り組むためのメンバーが組織化できている企業は少ないと思います。

3月のフィンサムでも損害が発生した時の保険でのカバー率が日本企業は欧米企業と比べて低いといった内容の発表があったと記憶しています。

この報告書でも「リスクマネジメントについては欧米の先進企業に参考となる取組が多く見られる」旨の記載があります。

実際に、欧米には、自然災害、紛争、大規模なサイバー攻撃等含めて、外部的な要因による損害の発生に備えるための仕組みが体系的にできており、そのための教育体制も整っている企業は多いように感じます。

いつどのような大規模な災害が発生してもおかしくない今の時代、発生前の予防・被害軽減、発生時に対応できる機能と組織、発生後の損失への資金的備え、
といったリスクへの体系的なアプローチを構築していく必要があると言えます。

この報告書で言及されている現状分析は大変参考になります。
一部を抜粋させていただきます。

<日本企業のリスク対応>

【リスクファイナンス(リスク移転・リスク保持・資金調達)】

  • 日本企業における損害保険の購買は、事業部門や総務部門が部門ごとに個別に手配する分散型の仕組みが一般的であり、重複補償や補償範囲の抜け漏れが生じる可能性がある
  • 保険を単なる「コスト」と捉えている傾向が強く、損害保険会社任せのプログラムに陥る事例も少なくない
  • リスク分析が不十分で損害保険会社に対して正確なリスク情報が提供されず、損害保険会社が企業実態に即した引受判断や補償設計が困難となる
  • 企業内代理店の多くは、国内の保険代理業に特化しており、海外リスクへの対応や国際的な保険スキームに関する知見を十分に持ち合わせていない
  • 専門知識を有するリスクマネージャーの採用・育成が難しい

【リスクコントロール(予防策・被害軽減策)】

  • 予防的な取組が十分とは言えず、短期的なコスト負担や人員制約を理由にリスク低減策が後回しになるケースが見られる。
  • 事業継続計画(BCP)が事後対応に偏重し、予防策との連動が弱いため、重大障害の発生抑止や影響緩和が十分に機能しないリスクが残る
  • 国際的なアンダーライティング環境のもとでは、消防法の遵守のみでは十分とは評価されない。
  • リスク低減策の高度化が進まない場合、重大事故の発生確率の低減や損害抑制が十分に図れず、保険調達の観点でも不利な条件につながる可能性がある

【レジリエンス】

  • リスクが顕在化した場合の迅速な復旧体制や代替手段の整備が十分ではなく、重大障害発生時には復旧が長期化し損失が拡大するリスクが高い
  • レジリエンスの優先度が上がらず、災害復旧プロセスの検証や代替設計が後回しになる
  • 外部制度や評価におるインセンティブが乏しい

【経営陣のリーダーシップ】

  • リスクマネジメントを現場や総務部門に委ね、経営陣が主体的に関与する仕組みが十分でない

【リスクマネジメント文化】

  • 失敗の回避が重視される組織風土、訴訟環境の特徴、意思決定プロセスの構造などが影響
  • コンプライアンス、不祥事防止、既存事業の安定運営など、「守り」の領域に重点が置かれやすい
  • リスクを「脅威」として捉える傾向が強く、リスク情報を活用して新たな価値創造につなげるという戦略的な視点が十分に浸透していない

<損害保険会社側の現状と課題>

【アンダーライティング】

  • 自然災害の激甚化や新たなリスクの顕在化に伴い、再保険市場を含めて引受条件が一段と厳しくなっている
  • 日本市場には料率水準、一社引受慣行、寡占状態、海外再保険市場へのアクセスといった制度・商慣行に起因する「市場構造上の課題」が存在
  • 外国損害保険会社の市場シェアは極めて限定的
  • 契約条件が画一化し、短期的な料金引き上げにとどまり、企業の多様なリスク特性に応じた機動的な引受が十分に実現できていないおそれがある

【保険料の設定】

  • 保険料率には強い引き下げ圧力が働き、本来のリスクの大きさに応じた保険料の設定が難しく、収益性及び健全性の確保には課題が残っている。

【新種リスク等の引受】

  • サイバーリスク、再生可能エネルギー関連リスク、AI・IoT領域のリスクなど、新種リスクが急速に拡大している

<所感>

自然災害に対しては火災保険、海上輸送に対しては海上保険など、それぞれの分野に応じて管理されてきたと思います。

この点について、課題感を持っている企業はそもそも少ないのではないでしょうか?

この報告書は、そういった危機意識に対して、欧米企業との比較という観点から警鐘を鳴らすものであると感じます。

保険で対応できると思っていたが、対応できない、または、保険会社が対応できない規模の大きな災害が発生、いったところまで考えるのがグローバル基準のリスクマネジメントであるとしたら、数ある損害保険商品の中から保険商品を選択するのではなく、企業と保険会社と一緒に個別最適の保険商品を考えるというアプローチが必要になると思います。

そういった時代になってきていることを感じます。