公正取引委員会
「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」及び「契約書ひな形」
2026年6月に、立て続けにアイスや派遣事業等でのカルテルが問題となりましたが、特定の企業群による市場への支配力を高まることは消費者の保護の観点からだけでなく、競争関係における企業の自助努力の機会も失わせることになり、産業全体のイノベーションも阻害することになります。
同様に、取引上の力関係で本来保護されるべき知的財産権が不当に取り扱われることは、新しい成長の芽を摘み取り、産業全体の競争力を削ぐことになります。
独占禁止法上の優越的地位濫用規制、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延等の防止に関する法律(取適法)、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)に関連して、取引の中で行われる知的財産権等の不当な吸い上げを防ぐことを目的とした指針が公表されています。
指針で論点が問題となり得る事例とともに整理されており、契約書の雛形も提供されており、一般企業の実務担当者だけでなく、法務関連の専門家にとっても大変参考になる内容となっております。
以下、個人的に参考となった論点をピックアップさせていただきます。
- 独占禁止法と取適法では、原則として取適法を優先して適用
- 独占禁止法、取適法、フリーランス・事業者間取引適正化等法では原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法を優先して適用
- NDAを締結する場合において、双方からの秘密情報の開示が想定されるにもかかわらず、一方の当事者のみが秘密保持義務等を追う内容のものとしないこと
- 監査や品質保証等により、相手方のノウハウ等の提供を受ける必要がある場合には、あらかじめ監査や品質保証等を必要とする箇所を明らかにし、また、監査や品質保証等の目的を達成するために必要な範囲を超えてノウハウ等の提供を求め、又は知り得る行為はしないこと
- 試作品の製造を依頼した場合における試作品そのもの又は技術指導の過程で得たノウハウ等を秘密情報として取り扱うこととし、当該相手方が蓄積してきた知識・経験などを含むノウハウ等を当該相手方の事前の書面又は電磁的記録による承諾を得ることなく、他の目的に利用し、複製し、又は、第三者に開示しないこと
- 受注者において創出した知的財産権等の提供を受けるに当たっては、その創出に要した費用や将来的な利益等も考慮し、その価値を適切に評価した上で対価を決定すること
- 成果物に係る対価と知的財産権等の対価を区分するか否かを問わず、成果物の制作費用のみを基準として、知的財産権等の経済的価値が適切に反映されていない著しく低額な対価を、一方的に決定しないこと
- 知的財産権等の提供を求める場合には、取引の目的に照らして必要な範囲を超える無制限の利用又は全面的な譲渡を、当然の前提とする条件を一方的に設定しないこと
- 取引とは直接関係のない又は受注者等が独自に開発した発明その他これに係る独自の改良発明等の出願、登録等について、共同出願を強制的に求めたり、事前報告や出願等の内容の修正を求めるなど、企業が単独で行うべき出願等に干渉しないこと
- 自己の内規や従前の取引慣行のみを理由として、発注者が契約内容と関係がない特許出願について事前報告させること等を当然の前提としないこと
- 発注者の指示に基づく業務について、第三者との間に生じる知的財産献上の責任や負担を、同責任の所在を考慮することなく、受注者に一方的に転嫁しないこと、又はその旨を契約に定めないこと
- 共同研究開発によって得られた成果の帰属は、技術やアイデアの貢献度によって決められることが原則である。特に、もっぱら一方の当事者のみが技術やアイデアを提供している場合であって、他方の当事者のみに単独で帰属させるときには、原則として当該知的財産権等の適切な対価を支払うこと
<所感>
この指針に記載されている内容は、対等な契約関係を前提とするうえで至極最もな内容ばかりです。
しかしながら法務の実務では、各企業が整備している契約書ひな形やその提示方法については、上記に記載されている内容に反するものになっています。
契約は交渉です。交渉は自社にとって有利な内容を提示して、お互い譲歩を重ねながら、最終的に合意します。
そのため、交渉の最初の段階で提示する内容について、対等ではないものとなることは当然と言えば当然です。
そのような企業の法務実務において、独占禁止法、取適法、フリーランス・事業者間取引適正化等法の存在は忘れられがちです。
対等な取引関係での契約交渉ではなく、優越的な力関係にある立場から、上記指針に反する契約書ひな形を提示し、そのひな形に対する修正を一切受け入れないというスタンスで取引を成立させた場合、独占禁止法、取適法、フリーランス・事業者間取引適正化等法に反することになります。
企業の法務実務担当及びそれをサポートする専門家にとって、これらの法律を遵守することは欠かせないため、取引の相手方におうじて、提示するひな形の内容も変えなければならないと言えます。
実際に、多くの大企業が、取適法(旧:下請法)適用の有無を、契約交渉前に最初ににチェックしています。
政府として産業の競争力強化に集中的に取り組んでいる今、独禁法や取適法等の取り扱いはますます厳格になってくることが想定されますので、こういったワークフローを確立していくこともこれからは重要と思います。